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Hadwiger予想のブール代数による証明

Hadwiger予想「彩色数 n のグラフは完全 n 点グラフに縮約可能である」を証明します。


1 ブール代数による表現

ブール代数の用語を簡単に整理しておきます。

論理変数(logical variable) 真理値(truth value, logical value)として、(true, 1) あるいは(false, 0) の2種類の値のどちらかしかとらない変数。命題(proposition)ということもあります。

論理演算子(logical operators) ブール代数の演算子の定義です。

 A  ¬A 
10
01
 A  B  A ∧ B  A ∨ B  A → B  A ← B  A ⇔ B 
1111111
1001010
0101100
0000111

恒真式 各論理変数の任意の論理値で、となる論理式を恒真式(tautology) といいます。
各論理変数の任意の論理値で、となる論理式を矛盾式(contradiction) といいいます。

標準形式(canonical normal form) 矛盾式ではない任意の論理式は、すべての論理変数を含む論理積の論理和の形式に展開することができます。また、恒真式ではない任意の論理式は、すべての論理変数を含む論理和の論理積の形式に展開することができます。これらを論理式の標準形式といいます。

すべての論理変数をふくむ論理の項を最小項(minterm)といいます。
すべての論理変数をふくむ論理の項を最大項(maxterm)といいます。

論理式を最小項の論理の形式で展開したものを加法標準形(canonical disjunctive normal form, CDNF)といいます。
論理式を最大項の論理の形式で展開したものを乗法標準形(canonical conjunctive normal form, CCNF)といいます。

ブール代数を有限単純グラフの頂点彩色に応用します。

定義 着色とは頂点に色を割り当てることです。

定義 彩色とは隣接する頂点が同じ色にならないように色を割り当てることです。

頂点x, y を結ぶ辺ex,y を、真理値として 1 あるは 0 のどちらかをとる論理変数とします。ex,y が 1 のときは x, y が同じ色で着色されていることに対応し、0 のときは x, y が異なる色で着色されていることに対応します。ex,y と ey,x は同じものとします。

グラフの頂点を整数で表し、m+1個とします。全体の集合を V とします。 V = {0, 1, 2, 3, 4, …, m} です。

集合V から、どの2つも異なる3頂点 i, j, k を選んで、次の論理式 r(i, j, k) をつくります。これは、i と j が同じ色で、j と k が同じ色なら、i と k が同じ色である、というような推移的な関係を表しています。

r(i, j, k) ⇔
 ( ei,j ∨ ¬ei,k ∨ ¬ej,k) ∧
 (¬ei,j ∨  ei,k ∨ ¬ej,k) ∧
 (¬ei,j ∨ ¬ei,k ∨  ej,k)

集合V のすべての3頂点の組合せで r をつくり、それらすべての論理積をつくります。それを論理式R とします。また、集合V の点からつくられことを明示するため、R(V) のように表記することもあります。

集合V から、どの2つも異なるn個の頂点 を選んで、n点の完全グラフをつくり、その辺すべての論理和を kn とします。これは、n個の頂点を n-1色以内で着色すると同じ色の2点が必ず存在する、ということを表現しています。たとえば、n = 5 とし5個の頂点を {1, 2, 3, 4, 5} とすると、k5 は次のようになります。

k5
 e1,2 ∨
 e1,3 ∨ e2,3 ∨
 e1,4 ∨ e2,4 ∨ e3,4 ∨
 e1,5 ∨ e2,5 ∨ e3,5 ∨ e4,5

集合V のすべてのn頂点の組合せで kn をつくり、それらすべての論理積をつくます。それを論理式Kn とします。集合V の頂点からつくられことを明示するため、Kn(V) のように表記することもあります。

命題1 すべての頂点を着色したとき、それに対応して各辺の真理値が定まります。その着色で真となる、R を加法標準形に展開したときの最小項が1つだけあります。逆に R を加法標準形に展開したときの最小項を任意に選べば、その最小項を真にする頂点の着色があります。

[証明]すべての頂点を着色します。i と j が同じ色で、j と k が同じ色なら、i と k が同じ色という関係を自然に満たすので、R を真にします。したがって、真になる R の最小項があります(この最小項は1つだけです。さもないと、同じ着色で真にも偽にもなる辺かあることになり矛盾します)。

逆を数学的帰納法で証明します。R の最小項にはすべての辺に論理否定がついたものがあります。それはすべての頂点を異なる色(どの2つの頂点も異なる色)で着色すれば真になります。R の最小項で論理否定のつかない辺があるもに関しては、その辺の両端の頂点を同一視することによって、頂点の数が1つ小さい場合に還元できます。頂点の数が3個以下の場合は容易に証明できます。∎

命題2 すべての頂点を n-1色以内で着色したとき、それに対応して各辺の真理値が定まります。その着色で真となる、Kn∧R を加法標準形に展開したときの最小項が1つだけあります。逆に Kn∧R を加法標準形に展開したときの最小項を任意に選べば、その最小項を真にする n-1色以内の頂点の着色があります。

[証明]すべての頂点を n-1色以内で着色します。すると、任意の n個の頂点を選んでもその中に同じ色の頂点が必ずあります。したがって Kn が真になります。同時に R も真になるので、Kn∧R が真になり、その最小項の1つだけが真になります。n色以上を使った着色では Kn は偽になります。どの2つも異なる色で着色された n個の頂点があることになるからです。

Kn∧R の最小項は R の最小項の部分です。したがって、Kn∧R を真にする着色があります。それは、すでに述べた理由により n色以上を使った着色ではありえません。n-1色以内の着色です。∎

2 射影

論理式R を加法標準形に展開し、グラフに含まれない辺を取り除いたものを、ΣR と表記することにします。Kn と R の論理積 Kn∧R を加法標準形に展開し、グラフに含まれない辺を取り除いたものを同様に、Σ(Kn∧R) と表記することにします。Σは続く論理式からグラフに含まれない辺を取り除く演算を表し、射影と呼ぶことにします。

例を使い説明します。射影で取り除かれる辺を e1, e2, e3 とします。f(e1, e2, e3) の射影とは、e1, e2, e3 に、1, 0 を代入して得られる論理式すべての論理和です。

Σf(e1, e2, e3) ⇔
 f(1, 1, 1) ∨ f(1, 1, 0) ∨ f(1, 0, 1) ∨ f(1, 0, 0) ∨
 f(0, 1, 1) ∨ f(0, 1, 0) ∨ f(0, 0, 1) ∨ f(0, 0, 0)

これは、e1, e2, e3 それぞれを、¬e1, ¬e2, ¬e3 に置き換えて得られる論理式すべての論理和としても同じです。

Σf(e1, e2, e3) ⇔
 f( e1,  e2,  e3) ∨ f( e1,  e2, ¬e3) ∨ f( e1, ¬e2,  e3) ∨ f( e1, ¬e2, ¬e3) ∨
 f(¬e1,  e2,  e3) ∨ f(¬e1,  e2, ¬e3) ∨ f(¬e1, ¬e2,  e3) ∨ f(¬e1, ¬e2, ¬e3)

取り除かれる辺の数がもっと多い場合、少ない場合も同様です。

射影について極端な場合を次にまとめます。f は辺の論理式とします。

f を辺の論理式とすると、次の論理式は自明に恒真式です。

 f → Σf

対偶をとると (¬Σf) → (¬f) ですが、(¬f) → Σ(¬f) なので

 (¬Σf) → Σ(¬f)

は恒真式です。

eはグラフに含まれる辺(射影で取り除かれない辺)とします。次の論理式が恒真式であることが分かります。

 e∧Σf1 ⇔ Σ(e∧f1)
 (¬e)∧Σf1 ⇔ Σ((¬e)∧f1)

f1, f2 を辺の論理式とします。

f1 → f2 が恒真式なら Σf1 → Σf2 も恒真式です。

他にも公式(恒真式)として次のものが成立しています。

 Σ(f1 ∨ f2) ⇔ (Σf1 ∨ Σf2)
 Σ(f1 ∧ f2) → (Σf1 ∧ Σf2)

2番目の式の証明です。(f1∧f2) → f1 から、Σ(f1∧f2) → Σf1 です。
同様に Σ(f1∧f2) → Σf2 ですから、 Σ(f1∧f2) → (Σf1 ∧ Σf2) が成立します。

グラフの辺すべての論理和を g とします。辺の添字が面倒なので、適当に番号を振って e1, e2, … とします。g の各項は論理否定がつかないことに注意してください。

 g ⇔ (e1 ∨ e2 ∨ e3 ∨ e4 ∨ …)

同値ですが、次のようにも書けます。

 ¬g ⇔ (¬e1 ∧ ¬e2 ∧ ¬e3 ∧ ¬e4 ∧ …)

ある着色が g を偽にするなら、その着色は隣接する頂点が異なる色になっており彩色になっています。

命題3 (¬g) → ΣR は恒真式です。

[証明]すべての頂点を異なる色で着色することを考えれば、自明に成立します。∎

命題4 グラフが n-1色では彩色不能であることと、(Kn∧R) → g が恒真式であることは同値です。

[証明]グラフが n-1色では彩色不能ならば、どの n-1色以内の着色でも g は真です。逆に (Kn∧R) → g が恒真式ならば、すべての n-1色以内の着色で g が真です。ゆえに n-1色では彩色不能です。∎

命題5 グラフが n-1色で彩色可能であることと、(¬g) → Σ(Kn∧R) が恒真式であることは同値です。

[証明]グラフが n-1色では彩色可能ならば、ある n-1色以内の着色でグラフのすべての辺が偽になり、(¬g) → Σ(Kn∧R) は恒真式です。逆に、(¬g) → Σ(Kn∧R) が恒真式ならば、Kn∧R の中にグラフのすべての辺を偽にするものがるということで、それはグラフが n-1色では彩色可能であることを意味します。∎

3 Hadwiger予想と同値な命題

辺の縮約とは、ある辺の両端の頂点を同一視し、かつその辺を取り除くこととします。もし多重辺が生じれば1つにまとめます。これまで述べてきたブール代数上の扱いでは、その辺の真理値を真とおくことと同じです。

辺の縮約、頂点または辺を取り除くこと(もちろん辺の両端には頂点がなくてはなりません)を繰り返して、n点の完全グラフにできること(最初からn点の完全グラフになっている場合も含みます)を、簡単に「n点の完全グラフに縮約可能」ということにします。

Hadwiger予想とは、「彩色に n色必要なグラフは、n点の完全グラフに縮約可能である」という予想です。対偶をとって「n点の完全グラフに縮約不能であるグラフは、n-1色以内で彩色できる」といっても同じです。

Hadwiger予想の n = 3 の場合は、閉路(サイクル)を含まないグラフは2色以内で彩色できるということで、自明に成立しています。そこで n ≧ 4 とします。

グラフは n-1色で彩色不能であるとします。Σ(Kn∧R) をグラフに含まれる辺の論理式として乗法標準形に展開した各項で、ΣR に含まれないものを、g, g1, g2, … とします。g はグラフの辺すべての(論理否定のつかない)論理和とします。定義より g, g1, g2, … は ΣR に吸収されません。次の論理式は恒真式です。

 Σ(Kn∧R) ⇔ g∧g1∧g2∧…∧ΣR

もし、g1が存在するとすれば、g1 の論理否定のついた辺を縮約すれば、より小さい n-1色で彩色不能なグラフになります。

つまり、いくつかの辺を縮約してより小さい n-1色で彩色不能のグラフにする方法がもしあれば、ブール代数の機械的な計算で乗法的標準形に展開することによって見つけることができます。膨大な計算となり現実的な方法ではありませんが、グラフの構造を分析することなしに(理論的には)できるのは、大きな長所です。

Hadwiger予想が正しければ、n-1色で彩色不能なグラフで、辺を1本以上縮約して n-1色で彩色不能なグラフにする方法がないグラフは、n点の完全グラフ(孤立した頂点を含んでもよい)だけです。したがって、次の命題6, 7 は、Hadwiger予想と同値です。

命題6 Σ(Kn∧R) ⇔ g∧ΣR が恒真式であることと、グラフが n点の完全グラフ(と孤立した点がある場合もある)であることは同値です。

命題7 Σ(Kn∧R) ⇔ ΣR が恒真式であることと、グラフが n点の完全グラフに縮約できないグラフであることは同値です。

(注意)Σ(Kn∧R) 自体が恒真式となる場合は、乗法標準形に展開できませんが、その場合はグラフが木、林、孤立頂点などからなるグラフであることが証明でき、2色以内で彩色可能となります。そのため取り扱わないことにします。

4 最小反例の性質

Hadwiger予想に対する最小反例の性質を説明します。

最小反例となるグラフは次ぎの性質をもちます。

命題8 最小反例は連結なグラフ(1つにつながったグラフ)です。n+1個以上の頂点をもち、完全グラフではありません。

[証明]定義より明らかです。∎

定義 最小反例は完全グラフではないので、他のすべての頂点に隣接しているのではない頂点があります。その頂点の1つを、頂点0 とし、頂点0 に隣接している頂点の集合を H とします。(明らかに集合H は n-1個以上の頂点を含みます)

定義 最小反例から、頂点0 と頂点0 に接続している辺を取り除いたグラフを G' とします。

定義 グラフG' に対して着色の条件X, Y を定めます。

命題9 グラフG' は、条件X の着色で、すべての辺の真理値を偽にすることができます。また、条件Y の着色で、すべての辺の真理値を偽にすることは不可能です。

[証明]定義より明らかです。∎

命題10 条件X の着色に対応する論理式は Kn∧R であり、条件Y の着色に対応する論理式は Kn-1(H)∧Kn∧R です。

[証明]定義より明らかです。∎

定義 Kn-1(H) を k と表記します。k∧Kn∧R は、Kn-1(H)∧Kn∧R の意味です。

定義 辺を縮約するときに、両端の頂点の少なくとも一方が集合H に属する点であるときに限り、合併されてできた頂点を集合H の頂点であるとします。この定義にしたがう縮約である場合、「集合H に向かって縮約する」などと言うことにします。

命題11 Hadwiger予想の n-1 の場合が正しいと仮定します。集合H に向かって縮約して、集合H の頂点で n-1点の完全グラフをつくることが不可能なグラフであることと、つぎの論理式が恒真式であることは同値です。

 Σ(k∧R) ⇔ ΣR

[証明]頂点の個数に関する帰納法を使います。まず集合H に含まれない頂点v を選びます。v の辺すべてを偽にすると、これは頂点v と v の辺すべてを取り除いたグラフに還元されます。v の辺のいくつかを真とした場合は、その辺を縮約することと同じで、やはりより小さいグラフに還元されます。これを繰り返し集合H に含まれない頂点がなくなれば、Hadwiger予想の n-1 の場合が正しいとする仮定により命題7の n を n-1 に変えて

 Σ(k∧R) ⇔ ΣR

は恒真式です。∎

定義 グラフG' の辺すべての論理和を g とします(g の各項は論理否定がついていません)。

命題12 グラフG' では、
 Σ(k∧Kn∧R) ⇔ Σ(Kn∧R) は恒真式ではありません。
 Σ(k∧Kn∧R) ⇔ g∧Σ(Kn∧R) は恒真式です。

[証明]Σ(k∧Kn∧R) は ¬g を含みません。しかし、Σ(Kn∧R) は ¬g を含みます。したがって、

 Σ(k∧Kn∧R) ⇔ Σ(Kn∧R)

は恒真式ではありません。

次の論理式は自明な恒真式です。

 Σ(k∧Kn∧R) → Σ(Kn∧R)

両辺の論理式を、グラフG' の辺の論理式として乗法的に標準展開し、最大項を比較することによって

 Σ(k∧Kn∧R) ⇔ g∧g1∧…∧Σ(Kn∧R)

が恒真式になるようにできます。ただし、g,g1,… は Σ(Kn∧R) に含まれない最大項です。グラフG' に頂点0 と頂点0 の辺を戻し、g1 で論理否定のついている辺を縮約すると、より小さい反例ができてしまい最小反例であったことに矛盾します。g1,… は存在しません。ゆえに

 Σ(k∧Kn∧R) ⇔ g∧Σ(Kn∧R)

は恒真式です。∎

Hadwiger予想が正しければ、命題12の論理式の条件を満たすグラフは集合H の外に辺を持たないことになります。強力な条件になっていることが分かります。

(注意)Σ(k∧Kn∧R) 自体が恒真式となる場合は乗法標準形に展開できません。その場合もやはりグラフG' が木、林、孤立頂点などからなるグラフであることが証明でき、2色以内で彩色可能となります。そのため取り扱わないことにします。

定義 論理式の先頭に tautology と書いて恒真式であることを表すことにします。

命題13 グラフG' では、

 tautology (Kn∧R) → { Σ(k∧Kn∧R) ⇔ g }

[証明]次の論理式が自明に成立します。

 tautology (Kn∧R) → Σ(Kn∧R)

あとは 命題12 の後半より明らかです。∎

定義 集合H に含まれていない頂点の1つを選び、頂点v とします。

定義  グラフG' において、頂点v 以外の頂点の集合を A とします。頂点v と、頂点vに隣接している(辺で結ばれている)頂点の集合を B とします。(集合B は、頂点v を含んでいます。)
集合A とB の共通部分を C とします。(集合C は、グラフG' において頂点vに隣接している頂点の集合で、n-1個以上の頂点があります。)

定義 P ⇔ [Kn(A)∧R(A)], Q ⇔ [Kn(B)∧R(B)]

命題14 射影をとる前に、頂点v の辺でグラフG' にふくまれない辺を取り除いても、射影をとった結果は同じです。すなわち、次の論理式は恒真式です。

 tautology Σ(Kn∧R) ⇔ Σ(P∧Q)
 tautology Σ(k∧Kn∧R) ⇔ Σ(k∧P∧Q)

[証明]グラフG' が n-1色以内で着色されているならば、集合A の頂点も集合B の頂点も n-1色以内で着色されているのは明らかです。ゆえに

 tautology Σ(Kn∧R) → Σ(P∧Q)

が成立しています。逆に、集合A の頂点が n-1色以内で着色され、かつ集合B の頂点も n-1色以内で着色されているなら、必要なら頂点v の色を変更することによって(必要になる場合というのは、集合C の頂点が n-2色以内で着色され、かつ頂点v に n番目の色を使っている場合です。)、全体を n-1色以内におさめることができます。ゆえに

 tautology Σ(Kn∧R) ← Σ(P∧Q)

両方をあわせて

 tautology Σ(Kn∧R) ⇔ Σ(P∧Q)

となります。

集合H は n-2色以内という制限を付け加えれば、同様に

 tautology Σ(k∧Kn∧R) ⇔ Σ(k∧P∧Q)

が成立します。∎

5 矛盾式

集合C とはグラフG' における頂点v の隣接点の集合です。

集合C に含まれる頂点の数を #C とすると、集合C の空でない部分集合の個数は (2^(#C)) -1 個です。

imax = (2^(#C)) -1 とします。

集合Di を集合C の空でない部分集合とします。( Di ⊆ C, i = 1, 2, …, imax )

まずは、集合C に2個以上の頂点があるものとします。

定義 集合C の頂点とその間の辺において、次ぎの2つの条件を同時に満たすことを、条件をJi とします。

定義 集合C の頂点とその間の辺において、次ぎの2つの条件のうち少なくとも一方を満たすことを、条件を¬Ji とします。

Kn(C)∧R(C) の最小項で条件Jiを満たすもの全体を論理式Siとし、¬Jiを満たすもの全体を論理式S¬iとします。

 tautology (Kn∧R) → [ S1 ∨ S2 ∨ … ∨ Simax ]

これは明らかに成立しています。Kn(C)∧R(C) の最小項は Ji のどれかを満たします。

ド・モルガンの法則により次の論理式に変形できます。

 tautology (Kn∧R) → ¬[ ¬S1 ∧ ¬S2 ∧ … ∧ ¬Simax ]

Kn∧R を仮定しているので、¬Si は S¬i と同値です。ゆえに

 tautology (Kn∧R) → ¬[ S¬1 ∧ S¬2 ∧ … ∧ S¬imax ]

となります。

集合C に含まれる頂点が1個だけの場合は、i = 1 のみで、S1 は真、S¬1 は偽と定義します。(ただし、今は反例となるグラフG' を問題にしているので、集合C には n-1個以上の頂点があるものとします。)

これで Kn∧R を仮定していれば、S¬1 ∧ S¬2 ∧ … ∧ S¬imax が矛盾式となることがわかりました。

定義 Qi と Q¬i を定義します。

 tautology Qi ⇔ Si∧Q

 tautology Q¬i ⇔ S¬i∧Q

この定義より次の式が成立しています。

 tautology Q → { ¬Qi ⇔ Q¬i }

 tautology Q → { Qi ∨ Q¬i }

定義 Pi と P¬i を定義します。

 tautology Pi ⇔ Si∧P

 tautology P¬i ⇔ S¬i∧P

この定義より、Pi は P∧Q に 頂点v と Di の頂点を結ぶ辺すべてに真理値1を代入し、それ以外の頂点v の辺に真理値0を代入したものになります。

Q を仮定していれば、 Q¬1 ∧ Q¬2 ∧ … ∧ Q¬imax と (¬Q1) ∧ (¬Q2) ∧ … ∧ (¬Qimax) の両方とも矛盾式です。命題としておきます。

命題15 グラフG' において次式が成立します。

 tautology Q → ¬[ Q¬1 ∧ Q¬2 ∧ … ∧ Q¬imax ]
 tautology Q → ¬[ (¬Q1) ∧ (¬Q2) ∧ … ∧ (¬Qimax) ]

6 証明

以下の証明方では、Σ(k∧Pi) 自体が恒真式となるときは乗法標準形に展開することができずにうまくいきません。しかし、その場合はグラフG' から頂点v を取り除いたグラフは木などの簡単なグラフとなります。グラフG は3色以内で彩色可能となり、n が4以上の Hadwiger予想の反例とはなりません。

命題16 グラフG' において次式が成立します。

 tautology Pi → Σ(k∧Pi)

[証明]命題13より

 tautology (Kn∧R) → { Σ(k∧Kn∧R) ⇔ g }

が成立していますが、命題14より次の論理式と同値です。

 tautology (Kn∧R) → { Σ(k∧P∧Q) ⇔ g }

この論理式の右側の項には、頂点v の辺はグラフG' に含まれているものしか現れないので次式が成立します。

 tautology (P∧Q) → { Σ(k∧P∧Q) ⇔ g }

頂点v と集合Diの頂点とを結ぶ辺すべてに真理値1を、他の頂点v の辺に真理値0を代入することによって、

 tautology Pi → Σ(k∧Pi)

が導かれます。∎

命題17 グラフG' において次式が成立します。

 tautology (Kn∧R) → [ Σ(k∧Pi) ∨ Q¬i ]

[証明]命題16より

 tautology Pi → Σ(k∧Pi)

が成立しています。それで

 tautology (Pi ∨ Q¬i) → { Σ(k∧Pi) ∨ Q¬i }

が成立し、

 tautology (Kn∧R) → (Pi ∨ Q¬i)

より

 tautology (Kn∧R) → [ Σ(k∧Pi) ∨ Q¬i ]

が導かれます。∎

命題18 グラフG' において次式が成立します。

 tautology (Kn∧R) → [ { Σ(k∧Pi) ∨ Q¬i } ⇔ { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ Q¬i } ]

[証明]次の論理式と同値であることは明らかです。

 tautology (Kn∧R) → [ { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } ⇔ { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } ]

特に次の論理式が成立していることを証明します。

 tautology { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } ⇔ { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi }

(k∧Pi) ← (k∧Pi∧Qi) が自明な恒真式であることから

 tautology { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } ← { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi }

が成立しています。これは { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } の最大項はすべて { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } の最大項であることを意味します。

逆方向の

 tautology { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } → { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi }

を証明すればいいことになります。そのために { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } の最大項すべてが { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } の最大項であることを証明します。

「4 最小反例の性質」で定義した集合A, B, C を使います。(辺の論理和というのは、その辺に論理否定をつけるか、またはつけないで、論理和をとったものです。)

  • M は集合A の頂点どうしを結ぶグラフG' の辺の論理和です。
  • N は集合B の頂点どうしを結ぶグラフG' の辺の論理和です。
  • L は集合B の頂点どうしを結ぶ辺の論理和です。グラフG' に含まれない辺も含みます。

M, N, L は次の2つの論理式を成立させるものとします。

 tautology Σ(k∧Pi∧Qi) → (M ∨ N)

 tautology (¬Qi) → L

すると (M ∨ N ∨ L) は { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } の最大項の1つです。

 tautology { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } → (M ∨ N ∨ L)

ただし、(M ∨ N ∨ L) にある辺e について e と ¬e の両方が現れていないことが条件です。この条件を満たすのは N を無視して良い場合に限ることを証明します。次の補題を使います。証明は、もし乗法標準形で表すことができたとすると、偽にすることができて、恒真式であったことに矛盾するからです。

補題 恒真式を乗法的な形に展開していくと、必ずどの項にも e と ¬e のような論理和が現れ、標準的な乗法形式で表すことはできません。

次の式が恒真式ではないとします。

 (k∧Pi) → M

すると (k∧Pi) が真でかつ M が偽になる場合があることになります。(k∧Pi) の最小項の1つを m とすると M を偽にするものがあります。

 tautology m → ¬M

m は集合A の頂点どうしを結ぶ辺からなる最小項です。

 tautology { (k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } → (M ∨ N ∨ L)

この論理式の集合A の頂点どうしを結ぶ辺に m を真にする真理値を代入します。ある辺e が m に論理否定がつかないで現れるなら 1 を、論理否定がついて現れるなら 0 を代入します。

この代入の結果、(k∧Pi) は真になり、M は偽になります。他の項は ' をつけて代入の結果を表すことにします。

 tautology { Q'i ∨ ¬Q'i } → (N' ∨ L')

N' と L' はグラフG' の頂点v の辺のみからなる論理式です。{ Q'i ∨ ¬Q'i } はもちろん恒真式です。補題より、(N' ∨ L') はある辺e で e と ¬e の両方を含むことになります。(M ∨ N ∨ L) は恒真式です。

(M ∨ N ∨ L) が恒真式にならないようにするには次の論理式が恒真式でなくてはなりません。

 tautology (k∧Pi) → M

M にはグラフG' の辺しか含まれていませんので次の論理式が成立します。

 tautology Σ(k∧Pi) → M

次の論理式も成立しています。

 tautology Σ(k∧Pi∧Qi) → M

{ Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } の最大項は (M ∨ L) の形をしたものだけです。

 tautology { Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ ¬Qi } → (M ∨ L)

次の論理式が成立するので、(M ∨ L) は { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } の最大項でもあります。

 tautology { Σ(k∧Pi) ∨ ¬Qi } → (M ∨ L)

これが証明するべきことでした。∎

命題17より

 tautology (Kn∧R) → [ Σ(k∧Pi) ∨ Q¬i ]

が成立しています。(Kn∧R) を仮定しているので命題18より、Σ(k∧Pi) を Σ(k∧Pi∧Qi) に置き換えても成立します。

 tautology (Kn∧R) → [ Σ(k∧Pi∧Qi) ∨ Q¬i ]

ここで

 tautology Σ(k∧Pi∧Qi) → Σ(k∧P∧Q)

が自明に成立しています。したがって

 tautology (Kn∧R) → [ Σ(k∧P∧Q) ∨ Q¬i ]

がすべての i で成立します。

 tautology (Kn∧R) → [ { Σ(k∧P∧Q) ∨ Q¬1 }∧{ Σ(k∧P∧Q) ∨ Q¬2 }∧ … ∧{ Σ(k∧P∧Q) ∨ Q¬imax } ]

Σ(k∧P∧Q) を括りだします。

 tautology (Kn∧R) → { Σ(k∧P∧Q) ∨ (Q¬1 ∧ Q¬2 ∧ … ∧ Q¬imax) }

命題15 より (Q¬1 ∧ Q¬2 ∧ … ∧ Q¬imax) は矛盾式としてよいので

 tautology (Kn∧R) → Σ(k∧P∧Q)

が成立します。すなわち

 tautology (Kn∧R) → Σ(k∧Kn∧R)

が成立します。(Kn∧R) からグラフG' に含まれない辺すべてを取り除いたものが Σ(Kn∧R) ですから

 tautology Σ(Kn∧R) → Σ(k∧Kn∧R)

となりますが、逆の Σ(Kn∧R) ← Σ(k∧Kn∧R) は自明な恒真式です。よって

 tautology Σ(Kn∧R) ⇔ Σ(k∧Kn∧R)

が成立します。これは命題12に矛盾します。反例となるグラフG' は存在しません。∎

7 定理と系

以上より、Hadwiger予想より少し詳しい次の定理が成立していることが分かります。

定理 G を彩色するのに n色必要な完全ではないグラフとします。頂点v とそれに接続している辺を取り去ったグラフでは n-1色で彩色できるものとします。この場合、v に接続していない辺を縮約する(あるいは頂点、辺を取り除く)ことを繰り返して、v とあわせて n点の完全グラフをつくることができます。

グラフを彩色するのに n色必要で、ある頂点v と v に接続する辺を取り去っても、やはり n色必要であるとき、頂点v を可約な頂点ということにします。頂点u, v の2点が可約な頂点であるとしても、u を取り除いたグラフで v が可約とは限らない( u, v の2点を取り除いたグラフは n-1色で彩色できることがありえる)ので、注意が必要です。

次の系も成立しています。

系1 彩色するのに n色必要なグラフで、2つの頂点 u, v が隣接しているとします。u, v を結ぶ辺 eu,v を縮約したグラフが n点の完全グラフに縮約不能ならば、u, v 両方共に可約な頂点ではありません。

[証明]頂点v が可約な点ならば、v を取り除いたグラフは n点の完全グラフに縮約できます。したがって、頂点v の辺の1つを縮約したグラフも n点の完全グラフに縮約できます。この対偶をとればよいです。∎

系2 彩色するのに n色必要なグラフで、ある頂点v に隣接する頂点を v1, v2, …, vm とし、v とこれらの頂点を結ぶ辺を e1, e2, …, em とします。e1 を縮約したグラフ, e2 を縮約したグラフ, …, em を縮約したグラフ, のすべてが n点の完全グラフに縮約不能なグラフであるならば、v, v1, v2, …, vm は可約な頂点ではなく、これら以外のすべての頂点は可約です。

[証明]系1 より v, v1, v2, …, vm のすべてが可約な頂点ではありません。頂点v に隣接していない頂点u が可約ではないと仮定します。定理によって、頂点u に接続する辺以外の辺を縮約して、n点の完全グラフをつくることができます( u は n点の完全グラフを構成する頂点になっています)。このとき、仮定により v の辺は縮約していないはずです。u と v は隣接していないから、v の辺を縮約しても、n点の完全グラフができることになり矛盾します。したがって、u は可約な頂点です。∎


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